徒然なるままに読書

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思想の軌跡 書評『ミル自伝』

あらすじ   著:ジョン・スチュアート・ミル
どの分野でも,それぞれ一人の人間が一生かかるほどのことを見事に成し遂げた驚くべき彼の力の秘密はいったいなんであったのか。あらゆる自伝中の白眉と称される精神の発展の記録。

 どんな本か?

 幼少期からどんな教育を受け、何を考えたのかその思想の発展の軌跡を記した本である。誰それと交流を持ったなど思想に関係する部分は詳細に書かれているが父を除くと家族について全くと言っていいほど書かれていないなど直接思想に関わらない部分については別の本を参照する必要がある。

 

感想

 経済学者として,思想家として,また論理学・哲学・倫理学・文芸評論・宗教論争で大きな業績を残したジョン・スチュアート・ミル。彼の思考力の源流はなんだったのかが本書で明らかになり、それが彼の偉業の礎となったことは間違いない。それは父が施した英才教育である。しかも英才教育と聞いて連想されるような教育に力を入れている学校に通わせるといったものではない。父が自ら教育を一手に引き受けたのである。その内容は驚くべきもので、四歳からギリシャ語を習い始める。その方法として簡単な文法と膨大な単語を暗記することだ。習得後は英雄譚や対話篇、論文などギリシアの古典を読む段階に進んだ。しかもただ読むだけでなく、父にその内容を話し鋭敏な質問に答えることによって徹底的に自分の頭で考える訓練となり、毎日続けることで習慣にもなったようである。ギリシア語の他には算術も始めた。学校へ行く年齢になるとラテン語も習うようになった。このように自分が歩んだ幼少期とは一線を画す幼少期に驚きつつ、幼少期に膨大な量の情報を詰め込みそれをアウトプットすることが後の精神に多大な影響を与えることを認めた。同様の例としてはユダヤ人が幼少からタルムードを覚えることや三島由紀夫が国語辞典を愛読書にしていたことなどか。父の手伝いとして本の校正やその内容についての議論などでもう14歳ごろには一通り経済学をマスターしたようで学者とも議論できた。教育の成果は他分野にわたる業績となったが一対一で被教育者の熱意と素質だけでなく教育者も広く教養が求められるなど学校で行うよりも家庭内でしかできない教育法だ。

 

 なぜ父はこんなにもミルの教育に心血を注いだのか。特に明示されていないけれども妻と関係していると思っている。解説からどうやら妻は知性的な人ではなかったようだ。しかも裕福とは言えない家計状態と大家族を切り盛りし家事だけで手一杯となりとても知的教養にまで手が回らず父が求めるほどの水準ではなかった。そこで父は自分の求める知的水準を子であるミルに求めその結果として超英才教育とも言える教育法になったのではないか。自伝に家族がほとんど出てこないのも思想に関わりがないのもそうだが父が方針を変えたのかミルほどには教育の成果がでなかったのだろう。

 

 

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