孤独で暮らす喜び 書評『孤独な散歩者の夢想』
あらすじ 著：ルソー
『告白』につづいて書かれた本書は，その自己探求の道をさらに進めたものである．晩年全くの孤独に閉されたルソーは，日々の散歩の途上に浮び上る想念を，つれづれの印象を，事件を，あるいは生涯のさまざまの思い出を記し，人間と自己を見つめ続けた．偉大な思索家ルソーの諸著の中でも，特に深い感銘を与えるものであろう．
どんな本か？
晩年に書かれた本で今までは社会契約や教育法など対外的な著作が多くを占めていたのに対し、『告白』に続き自己省察を目的としている。隠居生活で何を思い何を感じたかが流麗な散文で自然とその情景を思いこさせる。
感想
ルソーは学問芸術論に始まり当時の文壇に欠かすことのできない時代の寵児であった。しかし、老いるにつれキリスト教信仰から自然宗教の如きものへと改宗し信徒から攻撃され、またその衝撃的な著作が世間に与えた影響は大きく様々な人からのバッシングにあった。さらに一時期正気を失ったことで知己までも失い孤独となった。隠居生活でパリ郊外に居を構え日課としている散歩にて考えた夢想を深めていく。
世間から迫害されていると思い詰め隠居するに至ったがそれでも自分は悪くない、自分をその著作を認めない世間が悪いと繰り返し書かれ凄まじいまでの自己執着を見せながら、その一方で世間には好意的な無関心で迎えひたすらに内省を深め自分とは何かを突き詰めていく。例えば「真実に捧ぐ」という文句から自分は嘘をつくか、という命題を考える。まず嘘とは、今までに自分は嘘をついたことがあるか、と思考の幅を広げていき遂には自分以上の正直者はいないという結論に至る。ここでも自己執着が見られるがそれ以上に自分の信条に忠実に生きようとしたことがわかる。そうでなければ「告白」でもないのに自分しか知らない少年時代の過ちについて語らずに人口に膾炙した事柄について語ればいいはずである。けれどもその点を偽らず真実を語ることがその証左だろう。
世間からの逆風により図らずも自己省察に励むことが畢竟満足に生きることに繋がり自分が今幸福に過ごしていることを明確にした。他者からの評価や意見に拘泥することを止め自分はどう生きるのかを自問自答することで救済を得た。これは現代でも通じるのでは。
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