徒然なるままに読書

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【感想】忘れられた戦争 『第一次世界大戦 忘れられた戦争』(山上 正太郎)

本書を手にとったきっかけ 
 中国進出の足がかり、後に米国との対立を生むことになった日本にとっても意義深い戦争だった割にはよく知らなかったからです。

 

第一次世界大戦 忘れられた戦争 (講談社学術文庫)

第一次世界大戦 忘れられた戦争 (講談社学術文庫)

 

 

内容(「BOOK」データベースより)

一九一四年夏、「戦争と革命の世紀」が幕を開けた。交錯する列強各国の野望、暴発するナショナリズム、ボリシェヴィズムの脅威とアメリカの台頭…。ヴィルヘルム一世、ロイド・ジョージ、クレマンソー、レーニン、ウィルソンら指導者たちは何を考え、どう行動したのか。日本の進路に何をもたらしたか。「現代世界の起点」たる世界戦争を鮮やかに描く。  

 

 

 1.戦争の経緯
 1914年オーストリア皇太子フェルディナント大公夫婦が共同統治国ボスニア・ヘルツェゴヴィナの訪問中にセルビア民族主義青年に暗殺された。*1オーストリアセルビアに対して最後通牒と宣戦布告、以後戦争に突入する。

 オーストリアはドイツと、セルビアはロシアと同盟関係にあり、オーストリアセルビアの戦争に巻き込まれる形で戦争が始まります。*2また、ドイツはイタリアと、ロシアはフランス、イギリスと同盟を結んでいたので、イタリア・フランスも参戦することになりました。独・墺・伊の同盟を三国同盟、英・仏・露の同盟は三国協商と呼ばれます。*3

 

2.日本への影響

・債務国から債権国へと転換

 日露戦争の戦費を国債など賄った日本は債務国でした。しかし、第一次世界大戦の勃発とともに各国が総力戦体制に移行すると、アジア市場からヨーロッパ企業の撤退が始まり、市場の空白に乗じて日本企業が市場シェアを伸ばしていきました。また、ヨーロッパからの輸入が止まり輸入品が入ってこなくなったことが輸入品の国産化への道を開きました。1915年から1920年までの好景気は大戦景気と呼ばれます。*4

・中国進出のさらなる足がかりを取得

 日本は1914年10月に対独参戦し、ドイツが有していた中国の青島・膠州湾租借地を占領しました。その後、密約も含めて諸外国に日本がドイツの中国権益を継承することを認めさせます。また、袁世凱政府に対して、21か条要求を突きつけ受諾させます。*5

アメリカとの対外関係

 日本の露骨な中国進出が同じく中国へと進出しようとしたアメリカの警戒心を高める結果になりました。政策上の対立はありつつも、21か条要求を関係の底に以後二国間関係は安定化していきます。*6

 

3.世界史的な意義

ロシア革命を経てソ連邦が誕生

・ドイツ、ロシア、オスマンオーストリアの4帝国が崩壊

・ドイツ・イタリアでファシズム醸成の土壌が生まれる

国際連盟を始め平和維持を志向するワシントン体制が発足

・ヨーロッパの衰退とアメリカの台頭

 

4.雑感

 第一次世界大戦はヨーロッパの疲弊とアメリカの台頭を決定的なものにした戦争ですが、そこに至るまでのアメリカ史と以後の対日史をこれから追っていきたいです。

 

 

 

 

 

*1:暗殺の背景にはバルカン半島を舞台に、セルビアが過去の版図を復興しようとする大セルビア主義とそれを支援するロシアの汎スラヴ主義、ドイツが旗手となっている汎ゲルマン主義の対立がありました。

*2:勢力均衡政策のもとで各国が複雑な軍事・経済的な同盟条約を結んでいました。

*3:後にアメリカ、日本も同盟関係を理由に参戦します。

*4:戦争終結とともに輸出は急激に減少し、戦後恐慌に見舞われます。

*5:日本側が特に重視したのは旅順・大連の租借延長、満鉄鉄道など鉄道関係の延長です。

*6:戦後体制であるワシントン体制に日本が積極的な協調的立場を取り、それまで懸念事項だった21か条要求の部分的な撤回、シベリア出兵の撤退を行ったからです。