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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

資本主義は生き残れるか? 書評『資本主義の預言者たち ニュー・ノーマルの時代へ』

 

 あらすじ
資本主義は崩壊するのか、生き残れるのか。
ケインズシュンペーターミンスキーなど、5人の経済学者の思想・理論を通して、今日の経済事情と資本主義の行く末について考察した一冊です。新書用に書き下ろしたプロローグ(約70ページ)では、ピケティの『21世紀の資本』をはじめ、ノーベル経済学者のスティグリッツクルーグマンなどの最新経済論文を取り上げ、世界を覆う経済危機について、詳細に解説しました。そして世界は、「長期停滞と失業」という、経済成長が望めない状態、“ニュー・ノーマルの時代”に突入したことを、明らかにしています。
その大きな要因は極端なグローバル化と金融資本主義です。では、今後さらにグローバル化が進んでいくと、どうなるのでしょうか。
ピケティの『21世紀の資本』が話題ですが、あの大著を読まなくても、この本を読めばピケティの主張だけでなく、今の資本主義の問題がまるごとわかる!

 

 概要

1 資本主義への疑義 

 2008年の金融危機に端を発する世界的な経済危機は資本主義の行く末に疑義を抱かせるに至った。今までの資本主義観では現代資本主義を見誤るのではという危機意識がある。

 第一に,資本主義自体について。トマ・ピケティが著『21世紀の資本』で示したようにr>g,資本収益率が経済成長率を上回るとき格差が拡大するとする。過去200年間経済格差は拡大し続け,縮小したのは戦争で資産が破壊されたときと経済が1970年代まで驚異的な成長を遂げたときしかない。後者は日本では高度成長期にあたる。資本主義下で格差は拡大し続けることが通常であり,縮小することは例外である。とすると,新自由主義を唱え,経済や再配分の介入を控えると今後も格差は拡大するということである。 

 第二に,今後の経済について。劇的な経済成長がないことを懸念する。今日において経済成長は自明なものとされているが,歴史上に登場したのは1750年代の産業革命以後だ。産業革命はこれまで三度あり第一次産業革命は蒸気機関,第二次産業革命は内燃料,ガス灯,下水道,第三次産業革命は20世紀でITである。第一次,第二次では生活を激変させ,その波及は100年近く続いたが,第三次は比較的小さな変化しかなく,その波及効果はもう消費してしまい次の産業革命の望みが薄い。これまでは産業革命が劇的な経済成長を牽引してきたのだが,今後はその産業革命の希望が厳しいので低成長しか望めないことになる。高失業率と低成長が常態化する時代ニュー・ノーマルである。

 

2 過去に埋もれた預言

 20世紀において金融危機を予見した経済学者がいた。そのうちの5人がミンスキー,ヴェブレン,ヒルファーディング,ケインズ,シュンペーターである。かれらが注目したのが所有と経営の分離である。

 所有と経営の分離は,専門的な経営者を雇い,広く資本を集めることに成功した。しかし,その反面所有と経営が一致していたころのメリットが失われてしまった。従来は株主が経営者を兼ねていたので長期的な経営戦略を練り,その戦略に基づき投資や経営をすることができた。所有と経営の分離によって経営に興味のない株主は現場の情報を知らず,短期的な利益ばかりを追求する。株主は政治に圧力を加え株価が変動しやすい制度に変えていく。企業の株価が上がることで株主の利益になるので,株主は短期で値上げする株を買うことでその株の企業に資本が流れる。企業も資金を集めるため株主を募り,株主の目を引く短期戦略しか描かなくなる。その結果,長期的プランや基礎研究が疎かになってしまう。経済成長は技術革新に依存し,技術革新は基礎研究が大きな役割を果たす。しかし,所有と経営の分離は短期の利益を求め,利益になるまで時間のかかる基礎研究を疎かにする。その結果,経済が停滞する。

 ではその対応はどうするか。ヴェブレンは技術者が経営権を握る委員会の設立を提案した。利益ではなくより良い製品を求める技術者が企業の経営を担うことで,ただ短期的な利益だけではなく基礎研究をカバーすることができるからだ。基礎研究にも目が向けられれば技術革新が起き低成長ながら経済成長することができる。

 資本主義はおおまかに実体経済と金融経済とに分けることができる。前者は現在の現実にある物を取引し安定している。後者は将来における価格を取引するが不安定である。なぜなら前者は現実に依拠するので客観的であるのに対し後者は将来の値上がりするという期待,主観的でしかないので不安定なのだ。不安定さは投資家にとって収益を上げるチャンスなので,不安定な金融市場に資本が流れやすい。金融市場は期待という主観面に依拠し元来不安定であることに加え,投機の対象になっているのでなおさら不安定となる。経済はすでに密着しているのである市場の危機が経済全体に波及してしまい,2008年のように金融危機が世界経済にショックを与えることになる。

 金融に対する処方箋は金融規制を強化することだ。そのためにも市場に介入することを厭わない大きな政府が求められる。そして大きな政府は不況に対しても公共投資によって雇用を創出しようとする。不況は需要に対して供給が過剰になっている状態なので公共投資により需要を生み出すことで不況対策を図る。しかし,現在は大きな政府から小さな政府へシフトしようとしている。

 

3 見直される日本式経営

 1991年のバブル崩壊後日本は失われた20年と言われた経済停滞に突入し,現在経済成長を図るためアベノミクスが叫ばれその際,従来の日本式経営から欧米式経営への転換が活発となっている。日本式経営は会社に対し忠誠心を持ち,技術者やサラリーマンが社長となり経営を行った。利益ではなく,会社という共同体への愛着が資本主義が自壊することを防ぎ安定化させるためには必要であり,日本式経営が適している。

 

感想

 資本主義は大きな分岐路に立っている。このまま新自由主義の旗のもと規制緩和を進めるのか,大きな政府を志向し規制と経済への介入とで不況を克服し安定した成長を享受するかだ。利益追求のみではやっていけない段階にまで来てしまったが,現在でも利益追求を基盤とした制度と政治は変わりそうにない。