徒然なるままに読書

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書評『老子 (講談社学術文庫)』

あらすじ     著:金谷 治
老子』は、『論語』とならぶ中国の代表的な古典である。その思想は、人間はその背後に広がる自然世界の万物のなかの一つであるという自然思想の立場をつらぬくことにある。したがって老子は、人間の知識と欲望が作りあげた文化や文明にたいして懐疑をいだき、鋭く批判する。無知無欲であれ、無為であれ、そして自然に帰って本来の自己を発見せよ、という。中国思想研究の第一人者が説く老子の精髄。

 どんな本か?

 老子なる人物が人間の作為を否定し自然に沿った生き方を提唱する。人間は特別なのではなく自然界を構成する一つに過ぎない。人間の欲望や知識がもたらした文化や文明を批判する。荘子と併せて老荘思想と一括りにされるが老子のほうが政治色が強い。同時期の諸子百家の思想に対しても批判する。

 

感想

 人間の欲望や知識とそこから生まれる文化や文明を批判するがただそれだけを説いたのではない。軍略を説き処世術を説くなど権謀術数の側面を兼ね揃えており、世俗を離れながらも通じているそんな狡猾な老子が思い浮かぶのではないだろうか。

 知識も学問もない状態を自然状態とした思想家にルソーがいる。ルソーは知識や学問を学ぶことにより人間に欲が生じ、私有財産制の創設、そこから生じる格差を論じた。自然状態を孤立した環境と捉えたが、これは人間が他人と深く関わらないことで比較することを避け無欲を求めた。そして自然状態では空腹になったら食べる、異性と出会ったら交わり別れる、ということを繰り返す。社会化されず比較が起きないために食べ物を食べ切れないほど貯蔵する、ハーレムを囲うなど欲を出さない。『老子』の一篇にユートピアを記した部分がある。小国寡民として知られるものである。人々は自給自足の生活を営み、他国との交流を避け、互いに距離を置く。武器はあるがただあるだけで使われない。自給自足は足るを知り必要以上に求めないために私有財産制は生じない。交流がなく他国の暮らしぶりを知らないために自分が他人と比較して幸福がどうかに興味を示さない。まさに一致する。

 「道」の在り方を体得し欲望に囚われない生き様は困難に思える。しかし欲に塗れ他人と絶えず比較し比較されることに嫌気が差したとき「道」への扉が開かれているのかもしれない。

 

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