徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

賃金はいかに決定されるか/書評「資本主義の極意ー明治維新から世界恐慌へ」

賃金の上がらない現状

 現政権が謳ったことの1つに賃金アップがある。*1賃上げの効果としては、収入が上がるため消費が活発になること、ひいては長引くデフレから脱却することを見込んでいる。円安株高を背景に企業は好成績を挙げ、一時は賃上げの機運が高まったかのように思えたが、実際には一部の企業に限られ、英国のEU離脱のショックのせいで、賃上げへの期待も萎んでしまった。

 この現状をどう解釈するのだろうか。

 賃金の決定方法

1 主流派経済学の場合

 主流派経済学は賃金の決定を「分配論」として考える。モノの製造・販売によって得たお金のうちどの程度を人件費、つまり給料に充てるかが分配論の基本である。経済学の用語では労働分配率になる。*2

 企業が好成績を挙げながらも賃金が上がらないということは、労働分配率が維持あるいは低下していることを示している。そこで、政府はこの労働分配率を上げること、賃上げを要請した。

マルクス経済学の場合

 マルクス経済学は賃金の決定を「生産論」として考える。資本家が労働市場において労働者から労働力を買い、その労働力を使ってモノやサービスを作り、利益を得る。得た利益は資本家が総取りとなる。いくら企業が好成績を記録し、それに労働者が寄与していても、労働者に対しては労働力の対価として賃金を支払っているので、利益が2倍になっても、賃金が2倍になることはない。

 マルクス経済学において賃金の要素には次の3点がある。①労働力の再生産に要する資金②自己教育のための資金③次世代の労働者育成のための資金である。具体的には①は一日働いて再び明日の働けるようにする生活費としての側面、②は自分の技術や技能を高めることを目的にする読書やMBA取得といった自己投資、③は子供の養育費である。

 

現状に対する解釈・解決方法 

1 主流派経済学の場合

  上で述べた通り、労働分配率が低下・維持していると考えられるので、労働分配率を上昇させることが目的になる。自主的に企業が上げるのが望ましいが、それが行われない場合に政府が圧力をかけることになり、事実そうなった。

 労働分配率が高い企業・職種へ職を変えることも手だ。雇用の流動性の向上を主張する者のなかには、現在の硬直した雇用慣行が労使ともに資源の効率的な分配を妨げているとする。資源の効率的な分配とは、労働者から見れば自分に見合った給料であり、雇用者から見れば働きに応じた給与である。あまりに雇用が硬直しているので、労働者は自由に転職することができず、雇用者は柔軟に雇用や解雇もできない。そこで、雇用の流動性を高めることで、労働者は自分の望む条件のある職に変えることができ、雇用者も景気に合わせて柔軟に雇用調整ができるというわけだ。 

2 マルクス経済学の場合

 労働者から労働力を買い入れた時点で労働者はお払い箱となり、その後にいくら好成績を挙げようとも資本家が総取りすることになる。利潤を受け取るのは資本家(と土地を貸す地主)であり、労働者は利潤を受ける立場にない。 

 資本家が高い利潤を得るためには人件費を減らすことが最も簡単で確実だ。デフレにより物価も下がり、単に生活していくだけなら費用もそこまでかからない。①の面から賃金は据え置きあるいは低下する。短期的な利益を求めるブラック企業などは②③を度外視して賃金をカットしていると考えることができる。

 マルクス経済学が提案するのは、ストライキである。資本家の得る利潤の源泉は労働者の提供する労働力であり、労働の提供なしには利潤が生まれない。度重なるストライキによって資本家も譲歩する。

 

私見

  経済学の素人にとっては、好景気にも関わらず賃金が上がらない状況を理解するには利潤分配の場から労働者が排除されていると考えるマルクス経済学のほうが分かりやすいと感じた。 

  人口の再生産を度外視するブラック企業が蔓延ることは人口減少や内需の縮小など結局は自分の首を絞めることになる。

 

 

 資本主義の論理を理解することと現実をどう読み解くかが主眼に置かれている。

 

*1:最低賃金を1000円にすることを目指す、企業に賃上げの要請をするなど

*2:詳しい説明は経営指標(労働分配率)