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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

ナショナリズムを理解するために 書評『新・現代思想講義 ナショナリズムは悪なのか』

書評

 

新・現代思想講義 ナショナリズムは悪なのか (NHK出版新書 361)

新・現代思想講義 ナショナリズムは悪なのか (NHK出版新書 361)

 
 あらすじ
今、なぜナショナリズムを考察するべきなのか? 格差・貧困問題から経済復興までの喫緊の課題は、「国家」「民族」などのナショナルな意識に訴えかけることなくしては、もはや解決しえない。ナショナリズムを否定するだけの従来の議論を徹底的に批判し、ドゥルーズ=ガタリフーコーなど現代思想のキーテキストを読み解きながら、ナショナリズムの社会的・政治的な可能性を考える。

 

 どんな本か?

 ナショナリズムに対抗するためにはナショナル(国内)な経済政策や施策が必要とする主張に加え,そもそも国家とは?ナショナリズムとは?を検討していき,単純な反ナショナリズム論を退ける。

 

概要 

  1 ナショナリズムと国内問題

 一般に,ナショナリズムはオリンピックや領土紛争時に高揚する。ナショナリズムは祭典や紛争など非日常のなかで顕在化することが多く,日常ではナショナリズムを意識しない。しかし,その実ナショナリズムは日常にも潜んでいる。例えば,雇用問題を考える。

 今日ではグローバル化により国際化は労働市場にも及んでいる。外国人が採用試験を受けるだけでなく,工場や企業を海外に移転することも含んでいる。その場合,最も深刻な影響を受けるのが非熟練労働者と若者である。若者はもちろん実務経験や知識が欠けていることと現在の法律下では解雇が容易にはできないので優秀な人材を求め,採用を絞るからである。非熟練労働は高等教育の専門知識や経験をを必要としないので代替可能である。また非熟練労働者を供給できる新興国は高い賃金を必要としないので,彼らと競合する非熟練労働者と若者の賃金も低下せざるを得ない。

 不安定な環境や貧困は社会的な疎外を彼らにもたらすことになる。疎外から逃れるために確固とした基盤を求め,その基盤が日本国民という資格である。日本で国籍は出生すれば取得可能であり,日本国民である点において何ら格差もなく,疎外からも自由になる。そして,日本国民という資格に平穏を求めることとそうではない外国人を排斥しようとすることは表裏一体で,しかも労働市場での彼らの競合相手なのでより激しさを増すことになる。

 以上からナショナリズムが不安定な環境や貧困から激しさを帯びることが分かった。筆者はこの点に着目してナショナルな経済政策・政策を通じて社会的疎外を解消する。そして,ナショナリズムを穏やかなものにしようと主張する。

 

2 反・反ナショナリズム

 ナショナリズムを単純に反対することはできない。ナショナリズム市場経済で広がる格差のなかで,構成員間の平等を要請するからだ。ナショナリズムは政治的統合の役目も果たす。しかし,日本の思想界では単純な反ナショナリズム論が蔓延っている。先の雇用問題では,競争原理を押し移民の推奨を主張する論者もいるが,それでは社会的疎外を強化し,よりナショナリズムを先鋭化させる結果にしかならない。ナショナリズムを理解せず,単に反ナショナリズムを振りかざすだけでは百害あって一利なしである。

 

3 国家を超えた共同体から見た国家の本質

 国家を超えた共同体というと多くの人はEUを思い浮かべるのではないだろうか。しかし,ここで取り上げるのは「琉球共和社会憲法C私(試)案」である。この試案は琉球が日本による併合の後,第二次世界大戦では地上戦,戦後は駐留米軍の弊害という国家の暴力を経験したことから国家を克服することを目的に掲げる。そのため警察,官僚制機構,法律,軍の廃止を規定する(第二条)。つまり,国家の本質を強制力と見ていることが分かる。国家はその意に沿わない人物を間接的であれ,直接的であれ暴力,強制力を以て従わせようとする。間接的な暴力は滞納者に対する給料の差押え,直接的な暴力は警察活動が主である。

 

感想

  ナショナリズムについての言説,日本の思想界で反ナショナリズム論が受容される現状に対する批判が本書で容赦なく行われているが,戦前の日本がナショナリズムを戦争の道具に使ったという歴史的経緯があったことを踏まえても,なぜ日本だけが反ナショナリズム論を受け入れているのかという理由に迫った考察が見られなかった。反・反ナショナリズムに多くの紙面が割かれているのだから,その方面にも目を向けたほうがよかったのではないだろうか。