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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

安全保障を巡る議論のなかで 書評『安全保障とは何か』

 

安全保障とは何か (シリーズ 日本の安全保障 第1巻)

安全保障とは何か (シリーズ 日本の安全保障 第1巻)

 
 あらすじ
いま、なぜ日本の安全保障を問わなくてはならないのか。これまでの議論に何が欠けていたのか。現在と将来の日本の安全保障を考える際におさえておくべき文脈や課題を多面的に整理。時代状況の変化に伴って、安全保障に関する論理の転換をはかる必要性を示しながら、本シリーズ全体を貫く問題意識を提示する導入巻。

 どんな本か?

 集団的自衛権安全保障会議など日本の安全保障を巡る議論が活発に,法整備も進む中で,どのような課題があるのかを整理する。全八巻のシリーズの問題意識を明確にする。

 

概要

 1 安全保障とは? 

 安全保障とは,securityの訳語である。securityが日本に輸入された当時は「安全」と「保障」が主な訳で,そこには明確な区別がなされておらず,その点に日本の法文化の特徴がある。安全保障と一口に言っても内容は多岐にわたり,国家,エネルギー,経済,食糧と内容をある程度限定してもなお多様性は残る。そこで,まずはその内容を特定しなければならない。

 ところで,安全保障の対象もまた明瞭ではない。誰のための安全保障かである。従来の安全保障は専ら国家を対象としていた。特に第二次世界大戦後の秩序下で安全保障が意識されたのは冷戦である。米ソがともに核兵器を所有し,一度でも熱戦になれば滅亡の危機に瀕するからであり,国家の滅亡,人類の滅亡が目前に迫っていると考えられたのである。冷戦下では国家の存続が第一に,人間は国家よりも優先順位が低かった。冷戦の終結とともに安全保障の対象も国家から人間へと移行した。人間中心の安全保障である。人間中心の安全保障では人間がよく生きることを目的とする。そのために貧困からの解放が優先される。貧困というと日本は無関係に感じるが,日本では女性や子供,老人といった社会的弱者の貧困となる。さらに安全保障に自然災害と災害に伴う人災をも含める動きもある。

 

2 日本での安全保障

 前項で安全保障には国家と人間中心を対象とする2つがあると指摘した。この項では前者の文脈とする。日本は敗戦によりアメリカに占領されたことと平和憲法を制定したので,戦前のように自前の軍を持つことはできず,国家安全保障について再考を余儀なくされた。

2-1 日米安保

 1951年に日本が武装しない代わりに,アメリカ軍が常時駐留し日本の安全保障を肩代わりすることを定めた日米安保理条約を結んだ。その経緯として日本の再武装が軍国主義へと戻ることへのアメリカと周辺国の懸念がある。アメリカが常時日本に駐留することで戦時体制への復活を阻止し,東アジアに均衡をもたらすことと日本を西側陣営につけることが狙いとしてあった。近隣の中国やヴェトナムで社会主義が優勢となったこと,前年に朝鮮戦争が起きたことも関係している。

2-2 日米安保の政治との関わり

 日米安保により,通常かかる防衛費をアメリカが負担し日本は経済成長を追求することを優先した。この方針を戦後の保守政権を率いた吉田茂にちなんで吉田ドクトリンと呼ばれる。その内容として①軽武装②経済成長の追求の二点である。この方針は功を奏し日本は世界第二位の経済大国へ上り詰めていく。

 保守,革新陣営ともに日米安保を認め政治の争点となることは少なくなった。しかし,保守陣営は日米安保を盲信しアメリカに追従する属国かのような状況を作り出し,革新陣営は憲法9条を声高に叫び一国平和主義かを唱える状況に陥り,安全保障論は後退した。

関連:アメリカに追従するか否か

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2-3 犠牲としての沖縄

 日米安保条約により沖縄に在日米軍が駐留することになったが,その負担に関して本土との不公平が条約締結当時から現在に至るまで問題となっている。沖縄県は面積が日本の総面積に対して一割以下しかないのにもかかわらず,総在日基地面積の70%が沖縄に集中している。民主党政権時に普天間基地を県外に移転させる議論が起こったが実現しておらず,日米関係の悪化にも繋がった。

 沖縄が犠牲になったのは戦後だけではない。戦争末期に敗北が決った後にも本土決戦に備え時間を稼ぐために沖縄が捨て石にされた。

 

3 安全保障を担う国連

 第二次世界大戦後に国際連合が創設され,加盟国は自衛戦争を除き戦争は禁止し,侵略国に対して全加盟国を以て制裁することを定めた集団安全保障体制を構築した。国家の主権を維持しながらも平和を希求する試みである。

3-1 国連の機能不全

 国連は主権国家間の平等を承認しているが,軍事力では国家間に差があり,その点に安全保障体制の脆弱性がある。安全保障を担う安全保障理事会の5常任理事国には拒否権が認められ,一国でも決議に反対すれば決議は廃案になる。5大国はその方針を一致すべきとする理念から拒否権が作られたが,そのせいで冷戦期は米ソの対立が,冷戦以後は米中や米ロの対立から理念系である集団安全保障は実現していない。また2000年以後はアメリカの単独行動を抑止できていない。

 総会決議から紛争国への介入する手段がとられているが,介入の失敗や紛争解決に資することになっていないなど問題がある。 

3-2 日本の関わり

 国連の平和維持活動に日本がどう関わっていくべきなのかについても憲法九条とも関わり国民全体でコンセンサスを取れていない。保守陣営からは自衛隊をもっと積極的に派遣して国際貢献をすべきであり,その制約となっている9条を改正することを目指すという論調に,革新陣営はあくまで自衛隊専守防衛の組織であり,派遣するにしても非紛争地域で後方支援に限る,9条の改正は必要ないとする。

 現在,安倍首相の提唱する積極的平和主義のもと自衛隊を国外に派遣する恒久法の作成が現実のものとなっている。従来はPKO協力法など特別法と特別措置でその都度自衛隊を派遣してきたが,特別法では要件を満たさない限り派遣できないこと,時間がかかりすぎることなどが恒久法制定の背景にある。

関連:自衛隊派遣恒久法

自衛隊派遣:恒久法、公明が容認 手続きの厳格化を条件に - 毎日新聞

 

4 テロリズム

 従来安全保障が国家間の問題を対象としていたが,2000年以後から国家ではない主体からの攻撃に備える安全保障もにわかに隆盛してきている。日本では1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件,アメリカでは2001年の9・11がその契機である。

 問題として対象を国家に限定したときよりも,組織や個人の動きを予測することが困難であること,テロの予防が困難であることが挙げられる。特に日本では諜報を主要任務とした組織が長らくなかったことである。最近,情報機関として安全保障会議(日本版NSC)が創設されたが,それが国外から情報機関として認知され信頼されるかは未知数であり,省庁の情報を一元化できるかかも見えていない。

 

感想

  日本の安全保障がどのようなものなのかをシリーズを通じて理解できれば良し,理解できた内容を人が読んでも理解できるよう書くように訓練していきたい。本シリーズでは日本を主題としているので,世界の安全保障に関してなら必要な題目も抜けることがある。その点は他の書籍でカバーすることとする。