徒然なるままに読書

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イスラーム国とはなにか? 書評『イスラーム国の衝撃』

あらすじ     著:池内 恵
既存の国境を越えて活動し、住民から徴税し、「国家樹立」をも宣言した「イスラーム国」―なぜ不気味なのか?どこが新しいのか?組織原理、根本思想、資金源、メディア戦略、誕生の背景から、その実態を明らかにする。

 

 どんな本か?

 カリフを名乗りイスラーム世界の指導者たらんことを宣言した指導者バグダーディーだが,その誕生にはアメリカの対テロ戦争が生んだ権力の真空が関わっていた。

 

概要

 1 誕生以前

  2001年のアルカイーダが9・11テロを実行し,アメリカが報復に組織を壊滅に追い込むまで,過激派組織は中央に司令部がありそこから末端に支持を出すという中央集権型だった。しかし,壊滅以後はアルカイーダとその残党は象徴の役割を担い,象徴的な声明を発し,その声明を解釈した他の組織や個人のテロにお墨付きを与える分権型の組織へと変貌した。分権型組織の場合,計画が共有されているわけではないのでテロを未然に防ぐことは困難で,実行犯が捕まっても組織の逮捕とまではいかないという強みがある。フランスで起きた起きた新聞社襲撃と立てこもり事件はこの類型に属する。この個人のテロをホームグローンテロと言う。

 2002年アフガン侵攻,2003年イラク戦争対テロ戦争でアメリカは空爆や地上部隊の派遣で両国の社会インフラを破壊,政権の転覆を行ったが,政権の安定・インフラ復旧をやり遂げずに社会が不安定化したままで撤退してしまった。

 2011年アラブの春は完全に革命が貫徹されたとは言えず,シリアは内戦状態に突入し,地方に対する中央の統治が甘くなった。これらの事件により各国の統治が揺らぎイスラーム国の介入する余地のある権力の真空ができてしまった。

 

2 組織の誕生

 組織の変遷:タウヒードとジハード団→二つの大河の地のジハードの基地団→イラクムジャーヒディーン諮問評議会イラクイスラーム国→イラクとシャームのイスラーム国→イスラーム国(イスラミック・ステート)

 反米勢力として誕生したタウヒードとジハード団が人質の斬首を始めに行い,以後の過激派組織の雛形となった。

 

3 組織

 モースル陥落後,「カリフ」を名乗ったバグダーディーはイラク・シリアの一部を含むイスラーム国の建国を宣言した。それまで一過激派組織に過ぎなかった組織が既存の国家をまたがる支配領域を得たことが衝撃を与えた。

  2015年1月現在 イスラーム国支配地域

 組織の構成員はシリア軍人から外国人義勇兵まで幅広い層があり,日本でもシリアへ渡航しようとした大学生が私戦予備罪の容疑にかけられたことが話題になった。なぜ一定数のイスラーム教徒が集まるのかと言えば,アッラーのために闘うことはイスラーム法学上揺るぎない定説だからである。

 資金源は原油と人質の身代金である。原油の密輸収入は1日100万ドル,身代金は年間2000万ドルを下らないという。