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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

国家とはなにか? 書評『国家の社会学』

書評
あらすじ          著:佐藤 成基
国家とはどういう集団で、どういった機能をもち、社会や経済、政治、私たちの生活とどういう関係にあるのか。「国家とは何か」という基本的な疑問からナショナリズム社会福祉グローバル化といった現代的な課題までをレクチャーする概説書。読書案内つき。

 

 

 どんな本か?

 「国家」について社会学的な観点から様々に論じる。筆者の独自の意見は控えめに主流な説を押さえるのに役立つ概説書である。以下は目次だ。

 目次

 1国家とは何か            

 2国家と暴力

 3国家と官僚制

 4国家と戦争

 5国家と正当性

 6国家と社会

 7国家と統計(学)

 8国家とナショナリズム

 9国家と資本主義経

 10国家と民主主義

 11国家と社会福祉

 12国家のグローバル化

 13脱植民地化と「崩壊国家」

 14グローバル化のなかの国家

 15国家の現在,国家の将来

概要 

 1 国家の機能

 国家と他の集団とを分けるのは,国家が暴力を独占していることだ。この点を強調して,国家の定義を強制力を伴う制度の集合体とする。人がなぜ法に従うのかといえば,不法に対し罰則があり刑事事件なら身柄の拘束と労役,民事事件なら差押えや競売など違法者に対して公平無私に執行することができると信じられているからだ。その信頼を裏打ちするのが国家が有する強制力だ。

 国家の機能として次の3点がある。①暴力を独占的に行使する能力②資源を強制的に徴発し,再配分する能力③能力を正当なものとして承認させる能力。特に重要なものは③である。例えば,ある国で軍部がクーデターを起こし無事に権力を手中に収めたとする。この場合軍部が政治行政に全面的に関与するので①と②を簡単に満たすことができる。暴力の独占は軍隊と警察が担い,資源の強制的な徴発と再配分は暴力を支えに官僚制機構が行うことになる。しかし,国内外に正当性を示すには国内的には国民の支持を得る必要があるし,国外的には他国家の承認が必要となる。そのためには資源の徴発・再配分が公共性に基づくものでなければならない。公共性とは,一個人や集団を超えた国民全体の利益を考慮することであり,公共性を最も制度に反映したのが自由民主主義である。したがって,クーデターに成功した後に選挙を実施し国民からの信を得ることで単なる武装蜂起ではなく政変となる。国民からの信託が国内外に正当性を示す証となる。

 

2 国家の役割

 国家は国民に対し経済的文化的な各種のセキュリティを提供する。経済的セキュリティは補助金生活保護,文化的セキュリティは教育が代表的である。教育について,義務教育によってすべての国民が画一化され同じ言語による教育を通じてその同質性を高めることができる。これらのセキュリティを提供するのが行政であり,官僚制機構である。予め定められたルールに則り選抜され,規則に従い仕事に専念する官僚制は他の行政組織より効率性と安定性において卓抜している。実際にいち早く官僚制を採用し徹底化した国だけが戦争を勝ち残り,他の国が模倣することで官僚制は普及することとなった。主に「国民」に対して設けられたルールは国民に属さない者を排除し同質性を高める側面も持つ。国民の意識を持たない者がナショナリズム運動を展開していく。

 

3 国家の今後

 民主主義において幅広い国民が政治に参加することは国家に対し様々なセキュリティを要求することを意味する。経営者にとっては柔軟な労働環境法人税減税,労働者にとっては安定した労働環境,高齢者は充実した年金など時には矛盾する内容を含む。国家はその時期によって求められる在り方が変化する。国家が市民に介入することを拒んだ社会は夜警国家を望み,戦後は福祉国家が主流となり今後もその傾向は変わらない。グローバリズムが国境を越え作用し国内の格差が拡大するとするなら国家に求めるセキュリティもまた大きなものとなるので,グローバル化にあっても国家は存続していく。

 

感想 

  最近はイスラーム国(ISIL)が話題になっているが,本書を手に取った動機の一部になってもいる。イスラーム国と他の国家を区別しているものはなにか,換言すれば国家と他の暴力集団を区別するものは何かという問いである。上記の国家の定義だけではその区別がつかず,別の基準を求めなければならない。その基準がブルデューの象徴暴力の有無だ。象徴暴力とは,国内外の人々が集団の暴力の独占・資源の徴発再配分に何らかの正当性を見出すことができることを指す。象徴暴力が国家足らしめる。イスラーム国はその残虐性などから国外はもとより国内でも支持する人々が少数であるため象徴暴力を有さず,その結果単なる暴力集団に過ぎないこととなる。

 概説書なのでそこまで深い議論はしていない。基本的な知識が一応は身についたので,次は読書案内に従って自分の興味を引いたテーマを深堀りしていきたい。