徒然なるままに読書

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なぜ日本は闘わなければならなかったのか? 書評『日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く』

あらすじ     著:佐藤 優
真珠湾攻撃直後のNHKラジオでの連続講演をもとに、一九四二年一月に出版された大川周明著の『米英東亜侵略史』は、アメリカの対日政策の分析において、客観的および実証的なものだった。なぜ日本は対米英戦争に踏み切ったのか。アメリカの「太平洋制覇」戦略、執拗な満蒙への介入、イギリス植民地政策の実態などを緻密に分析し、「戦わねばならぬ理由」を大川周明は導き出していた。現在の地盤沈下する日本国家そして日本人が抱える外交政策の困難な問題を克服するヒントは過去の歴史にあるとの認識から、著者が『米英東亜侵略史』を丁寧に読み解く。

 どんな本か?

 大川周明の著した『米英東亜侵略史』を読み解きながら,現代でも通ずる見識を引き出そうとする。

 

概要

 1『米英東亜侵略史』

 日本にとって海外との本格的な接近は1853年のペリー来航から始まる。この時のアメリカ側の目的は鯨油獲得のための中継地を得ることだったが,自国との技術の差もあり翌年には条約を結ぶことになった。明治維新が起り,日本も近代国家へと邁進しようと諸政策を打ち,その成果は1894年に日清戦争の勝利として結実した。清の弱体化が露わとなり,列強がその暴力性を表し清が反植民地とまで成り下がってしまった。イギリスは産業革命によって生じた資本の求めるままに武力で市場を開放し,アメリカでさえ普遍主義をもってその帝国主義的性格を明らかにしていく。

 アメリカは建国以後十九世紀末までは各地域に応じて覇権国が存在しその世界史が併存する世界観で行動していたがアメリカ=スペイン戦争を契機に普遍主義を行動原理とし,太平洋制覇が目的となった。日本は島国であるため太平洋で安全に航海できるかどうかが安全保障の要諦となり,太平洋を支配下に置くことが国防や国家の繁栄の観点から重要となった。ここにアメリカと日本との利害が衝突することになった。日本はワシントン条約などを受け入れ軍縮を進めたが,アメリカはさらに譲歩を迫り次第に戦艦や駆逐艦の数が国防すら危うくなるとの危機感を抱くに至った。対アメリカ戦争は必然であった。

 

2 大川周明の戦争観

 国々はトーナメントのように争い唯一の覇者が決まらない限り戦争はなくならない,と考える大川にとって第一次世界大戦第二次世界大戦は一つの戦争であり,今回の戦争で東洋の覇権国日本と西洋の覇権国ドイツが最終戦争を戦い,日本が勝者になることを描いていた。

 

3 東亜秩序の建設

 東亜秩序とは,アジアを欧米列強の植民地支配から解放し,西洋は西洋の論理で,東洋は東洋の論理で独自に発展し交易することを目的とする。単に支配者が欧米から日本へと変わるのではなく,支配構造そのものの破壊を意図した。東洋と西洋で棲み分けし世界が繁栄を享受すると考えていた。

 

感想 

  日本が開戦に至った理由をアメリカの帝国主義的行動と欧米の植民地支配からの解放という二大柱に説明しようとしている。しかし,アメリカの帝国主義的行動と日本の満州事変日中戦争などとは無関係であり,植民地支配の解放を謳ってもその手段が欧米と同じく暴力による宗主国の変更にすぎなかっただけであり東亜秩序は指導者と国民の自己欺瞞の結晶である。

 ひたすらに日本という立場から太平洋戦争を眺めると以上のように見えるようだ。そこには自分の行動を省みることもなく,正当化することしかない。