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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

東大を通じて見る近現代史 書評『天皇と東大〈1〉大日本帝国の誕生』

あらすじ     著:立花 隆
日本近現代史の最大の役者は天皇であり、その中心舞台は東大だった―。長い長い鎖国の時代が終わり、日本という近代国家はどのように誕生し、どのように現代へとつながるのか。明治十年に設立され、国家運営の人材を供給しつづけた東大という覗き窓を通して描く。

どんな本か?

  博覧強記ぶりから「知の巨人」と目される立花隆が,自身の東大論を出発点に幕末から明治,大正,昭和といかに現代へと繋がっていくのかを豊富な資料をもとに紐解いていく。四分冊のうちの一冊。

概要      

1 国家に奉仕する東大 

 近代化を目指す明治政府にとって急務の問題は,国作りを担い国家の運営に携わる人材を安定供給することだった。そのため旧幕府下で外国の文明の成果を吸収する,情報の翻訳を担当する部署が統合され,帝国大学が形成されていく。西洋の大学との出自の違いがその根本的な性格の差異へと自ずと反映されている。ボローニャ大学に代表される西洋大学は学生が主体的に講師を雇い,授業を受けさらに運営することまでも含めた下から興った組織体であるのに対し,旧帝国大学である東大は人材の安定供給という目的を果たすために作られた組織である。そのため前者は大学自治,学問の自由は自明のものであったが,後者では学問研究はあくまで国家に奉仕することが第一であり,授業内容は国家に役立つことが中心で,また行政官僚と教授を兼職することができたので国家の方針に追随する授業が行われがちであった。そこでは学問の自由はもとより政府に対する批判精神を涵養することも困難だった。

2 東大への批判
 国家に従属するあり方を痛烈に批判したのが福沢諭吉大隈重信であり,有為の人材が国家にばかり集まり,民衆を率いるリーダーになり得る人材が民に降りてこないことを危惧した。そして外国語で外国の知識ばかりに偏り教養教育をおざなりにする東大の教育方針を批判し,教養を身に付けさせる独自の私学を開いた。それが現慶應義塾大学早稲田大学である。

3 天皇の介入 

 明治天皇が直接政治を執り行うようになると教育への介入度合いを強めていき,天皇の神格化が進むと不敬罪治安維持法が制定され,言論へも厳しい弾圧がなされるようになる。天皇を巡る問題は新渡戸稲造天皇機関説事件や軍縮条約に関わる統帥権侵犯問題など法学的理解とも絡むものへと発展した。

 

感想

  本書で引用された文章はルビが振られ,音読することで少しでも当時の文章の力強さを味わうことができるよう意図されているため引用文が多く,また文章に不慣れのため読む調子を外されるように思った。けれども読み慣れると次第に現在の漢字と仮名交じりの文章にはない力強さを感じるようになった。例えば,演説で読み方に一工夫すれば聴衆にある種の荘厳さを抱かせることもできる可能性がある。そうなれば内容が天皇に関する事柄の場合さらなる畏怖の念や行動を取らせることができ,教育と合わさり天皇の神格化に貢献したのだろう。
 官僚育成所であった帝国大学の問題点が広く,大学制度を初めとする教育制度の問題点にも当てはまり,その点を筆者は別著書で論じているようなのでそちらも読むことにしたい。

 

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