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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

外交のあるべき姿勢とは何か? 書評『アメリカ外交50年』

書評
あらすじ        著:ジョージ・F・ケナン
1900年からの50年間にアメリカがとった外交上の態度を徹底検証した講演集に加え、ソ連「封じ込め政策」の理論的基礎を示し反響を呼んだ論文等を収録。アメリカの戦後世界政策を構想した著者ケナンが、アメリカ外交の伝統における現実感覚の欠如を批判しつつ、そのあるべき姿を提言した外交論の教科書ともいうべき古典。

 どんな本か?

 アメリカの外交官ジョージ・ケナンの行った講演と封じ込め政策を提唱したX論文などから成る。

概要 

外交政策と世論

 19世紀末のアメリカ-スペイン戦争はメイン号の沈没によって開戦したが,本来不要なはずのフィリピン占領を行ったために州ではない植民地を獲得し,従来スペインが担っていた統治の重みを負うことになった。世論はとある提督のこの勝手な占領を咎めるのではなくむしろ英雄視し,この占領計画が政府の一部高官により企てられたことに見向きもしなかった。勝利という美酒に酔いその背後にまで意識が回らなかった。

 このことは第一次世界大戦にも付いて回る。当初は中立を保ちヨーロッパの戦争に係るまいとする姿勢で世論も支持していたのにもかかわらず,一度参戦することになれば中立を守るために協商国側に立っての参戦に含まれる矛盾に拘泥せず敵対する同盟国を徹底的に潰そうとする。

 アメリカは伝統的に世論も含めて道徳的・法律的アプローチを採っているが,この手法では解決できるものも解決できなくなってしまう。問題点として相手が道徳的・法的に誤っているためにその不正を正そうとして徹底的に戦争で言えば無条件降伏以外の和平をすべて妥協と見なすように争ってしまう。そこでは時期や戦後を考えた政策を取ることができず,かえって不利益になってしまう。例えば,第一次大戦でドイツを徹底的に叩いたことで戦後のイギリス・フランスの疲弊と相まってヨーロッパでソ連に対抗できる国がなくなってしまった。この点が第二次世界大戦に影を落とす。

第二次世界大戦 

  ドイツ,ソ連,日本と全体主義国家が世界でも有数の陸空軍力を保持しているためにこの三国の同盟が実現していたら,連合国側は正史よりもより痛手を負ったに違いない。特にドイツ・ソ連の同盟でヨーロッパの大半を支配することになり,マッキンダーのいう世界島を支配することに繋がり彼の弁では世界を支配することも可能であった。

 そのような同盟は実現せず連合国側の勝利で幕を閉じたが,アメリカにしてみれば絶対主義国家でありかつ共産主義国家でもあったソ連との同盟なくして勝利もなかったことは事実上の敗北だった。

冷戦 

  戦争末期からソ連との対立が目立ち始め戦後には鉄のカーテンが下ろされることになった。ソ連の勢力拡大を阻止するために封じ込め政策が提唱された。中核となったのはソ連の政治的影響力の行使をアメリカの政治的影響力で阻止するというものである。しかし,実際には軍事力による対抗となってしまった。またこの誤りからアメリカは財政赤字を抱えることになり,軍産複合体を強める結果となってしまった。

感想 

  ケナンは帝国ではなく共和国としてのアメリカを夢想したようである。他国の問題には介入せず,アメリカの利害に関わることにだけ関心を持つ。第二次世界大戦までイギリスが保持していた制海権が貿易の安定と結びついておりその安全が脅かされるとき,例えば無制限潜水艦作戦やイギリスが敗北の危機に瀕するときに限って参戦していた。

 しかし,現在では世界の警察として直接の利害に関係なく介入する度合いを強めている。しかも地域の勢力均衡を崩してでもだ。その点,筆者は咎めるのではないだろうか。しかも現在は人道的観点という道徳的アプローチによっている。この妥協を許さない姿勢が和平の時期を逸する危険があり,かえってアメリカの国益に反する場合もある。そして勢力均衡を除いて一貫した政策理念が欠けており対峙した国に余計な不安を与えている。

 19世紀と違いアメリカはその軍事的政治的影響力の強さから責任ある立場になりもはや孤立主義が相応しくなくなった。政治家や政府だけでなく国民も含めアメリカの責務を理解することが必要だ。