徒然なるままに読書

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闘争は義務である 書評『権利のための闘争』

あらすじ     著:イェーリング
自己の権利が蹂躙されるならば、その権利の目的物が侵されるだけではなく己れの人格までも脅かされるのである。権利のために闘うことは自身のみならず国家・社会に対する義務であり、ひいては法の生成・発展に貢献するのだ。

 どんな本か?

 欧米での法意識を明瞭に表した著作である。自己の権利が蹂躙されるときただ甘んじることはその本人だけではなく国家にとっても害悪でもあり権利のために立ち上がらなければならないと説くことで本書が初めて紹介された明治期の日本に衝撃を与えた。

感想

 権利のために闘う。一見訴訟狂のようにも思われる命題だが筆者は必要な闘争と不要な闘争とを明確に区別している。必要な闘争とは,倫理的存在である自己を傷つけらた場合であり不要な闘争とは,それ以外の場合である。前者は義務だが後者は権利に留まる。ここで問題になるのは倫理的存在とはなにかということだ。筆者の例では,将校=名誉,農民=所有権となる。したがって,その者が生きるにあたって必要不可欠な要素,中核が倫理的自己を構成することになる。農民は名誉よりも自分の農産物や土地が侵害されたときに損得を超えた訴訟をすることがあるが、それは損得勘定を超え自分の人格が侵害されたと考えるからである。

 私人間での闘争は権利のための闘争という見解はあっているだろう。しかし,対国家を巡る法廷闘争はどうなるのか。国家の不正に立ち上がる際にも法がより発展することになるのか。その点が触れられていないように感じた。