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徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

旧世界帝国に近代国家を揚棄する鍵をさぐる 書評『帝国の構造: 中心・周辺・亜周辺』

書評
あらすじ     著:柄谷 行人
 
筆者が論じたのは帝国、帝国の周辺と亜周辺という問題だった。資本=ネーション=国家の世界のもと、私たちが構想しえる未来とはいかなるものであり、世界共和国への可能性とはどこにあるのか。

どんな本か? 

 マルクスヘーゲル批判から出発し、氏独自の交換様式という観点と地政学的な中心・周辺・亜周辺という観点とを組み合わせることで近代国家を超えた枠組みを示そうとする。同著『世界史の構造』で描き切れなかった帝国というテーマを体系的に紐解く。

感想

 マルクスは社会を生産様式というフィルターで見たがそれでは不十分だ。生産様式ではなく交換様式で見る。交換様式とは、A:贈与と返礼B:支配と保護C:貨幣と商品D:高次元で回復したAからなり、現在は資本主義経済でCが優位になっている。さらに近代の国民国家と結びつき、資本=ネーション=国家となっている。それぞれが支配的な社会を見るとAは原始社会、Bは絶対主義国家、Dはいまだ実現しておらずこれから向かうべき形態である。

 旧世界帝国に近代国家を揚棄する鍵をさぐるためにまずは帝国から見ていく。帝国は18世紀の東洋の凋落と西洋の覇権争いが起こるまで、絶えず諸民族を統合してきた。帝国の例としてペルシャ帝国、秦を始めとする中国王朝、オスマン帝国、そして国ではないが統合の機能としてキリスト教会が挙げられている。オスマン帝国人頭税を払えば信教の自由は保障される。いわば不平等の上で平等が存在した。またキリスト教徒でもデウシルメによって召し上げられ成果を挙げれば帝国の中枢へ食い込むこともできた。キリスト教会はヨーロッパでまだ主権国家が成立する以前からキリスト教と教会法とで民族を超えて十字軍を組織するなど国家を超え民族を統合した。帝国は侵略と領土の拡大を志向したが、それは貿易を安全に営むためである。もっとも体現した帝国はモンゴル帝国である。モンゴル帝国は中東や東欧まで進行し陸路の貿易を安定させさらに海路の貿易をも保護したので陸海の貿易は結合した。またモンゴルは元は遊牧民国家だが中国をはじめとした農耕民国家を支配し性格の異なる両国家を統合した。複数の民族を統合するための帝国の原理として立法が尊ばれた。法という非人間的な原理によって支配民族と被支配民族の区分なく民族を尊重しつつもどちらを優遇するのでもなく平等が実現した。立法により民族的宗教的な寛容を実現したのである。

 帝国が民族統合だとしたら近代国家は民族自決と一国家一民族を中心としており帝国を解体するものである。近代国家の時代を迎え各国が侵略を始めたが帝国による侵略と区別し帝国主義的侵略としている。征服された国家では植民や宗主国の言語による教育など宗主国同化政策が進められそこでは立法による民族を尊重した平等は実現されていない。

 イギリスと日本とで共通点がある。それは帝国という中心に対して亜周辺という位置したことである。亜周辺では中心の影響を完全に被ることなく選択的にどの文化などを受容するかを決めることができる。日本は中国の影響を受けたが周辺に位置する朝鮮やベトナムなどと比べると自由度が高い。周辺国では中国の影響で漢字の導入や日本より早くに科挙を核とした官僚制国家となった。その理由として、日本は漢字のほかに平仮名やカタカナによって記述したので漢字よりも習得が容易で文字とそれによる知識の独占が進まず官僚制の発展が遅れた。対照的に周辺では漢字の導入により知識の独占も容易となり日本よりも早く官僚制が発達した。話は逸れるが西欧社会ではラテン語ラテン語で記された聖書により教義の解釈を独占した聖職者によって知識も独占された。また教会は西洋でいち早く官僚制の要素を帯びた。

 二十世紀の二度にわたる大戦により帝国と帝国主義的国家は崩壊し国民国家が中心となった。大戦の教訓から国家よりも上位の組織として国際連合が誕生した。しかし現代では国際連合が諸国家をまとめ紛争を解決しようという理念が崩壊しつつあるなかで交換様式Dへの止揚を目論む。カントのいう世界共和国にも似たものである。その鍵として氏は日本国憲法9条を挙げている。周知のように戦争の放棄を謳った平和主義である。各国が軍隊を順次放棄し最終的にはどの国も軍隊を持たない。そして交換様式A(贈与と返礼)が高次元で回復した交換様式Dは返礼をあてにしない贈与ではないだろうか。ただ与えるだけ、その実践を国家間で行うことが近代国家を超える方法と考えた。この交換様式Dが旧帝国を超えた世界共和国の原理となる。

 核の放棄だけでも困難を極める現在で軍隊の放棄は途方もない道で下手したら数百年経っても実現しないかもしれない。それでも世界共和国の理想は尊いものだ。

 

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