徒然なるままに読書

書評から日々の考え事まで綴ります

中国の弱みに石を打て 書評『中国の大問題』

あらすじ     著:丹羽 宇一郎
世界一の貿易額、世界第2位のGDPをかさに着て、中国が驕りを見せはじめた。その態度は、もはや日本なしでもやっていけると言わんばかりである。経済的に勢いづいているのは確かだが、その内実は数々の難問に直面している。拡大する都市と農村の経済格差、国有企業の杜撰な経営体質、テロや暴動が絶えない少数民族問題、要人たちの汚職と不正蓄財……。そうした中国国内の真実は、報道を通じて知られているようでいて、意外と情報は流れていない。感情論だけが先走り、隣国を正しく見据えられていないのではないか。

 どんな本?

 商社マンとして、中国大使としての経験から得た中国に関するレポートと日本の抱える問題に対する提言、巻末資料として日中に関する談話や宣言が収録されている。

感想

 中国が抱える問題は、共産党独裁から安全保障から幅が広い。中国国内の反日運動の高まりと日本国内でのナショナリズムの高揚から中国の台頭を脅威を見る人が多い。政治と連動した反日デモなどのチャイナリスクが顕在化したため中国に進出した企業が移転するなど人件費の高騰といった理由もあるが中国を敬遠することもあるそうだ。しかし、氏は14億人の市場と他の東南アジア国と比べてインフラ整備がなされていることを踏まえ中国市場を魅力のある市場と考えている。今や欧米各国や韓国が進出しこれから中国と付き合い利益を上げようと鎬を削っているなかで日本企業が一時の感情に流され、中国に橋頭保を設置しないままに他国との競争に先んじられることを危惧している。

 習近平国家主席が率いる現政権となって数年鄧小平以来の改革開放路線を突き進んでいるが、任期10年のうち前半は権力闘争による基盤固めの時期で大胆な政策は採れず国内の保守派の意向に沿った行動も多い。しかし、後半からは習近平独自の路線となる。氏に言わせれば彼自身は知日派なのだそうだ。そこで日本国内の状況を踏まえた互いに妥協点を探ることのできる政策を実施することが期待できるしそこから日中がどうにか協力する関係にしていかなければ日本の活路も危うい。

 中国の膨張路線について中国は海へ進出することを絶えず狙っている。近海に資源が埋まっていることもそうだが、日米同盟による連携によって中国の公海へのアクセスが日本とその後ろ盾となるアメリカのせいでふたをする形で困難と考えられてきた。海路を封鎖される危険性を排除するために海域に関しても支配を拡大しようとする。日米の切り離しや日本の孤立化を図ろうとするが、安倍政権靖国参拝河野談話の検証などの自虐史観の見直しはアメリカの反感を買い中国に資するものであった。

 中国は多民族国家である。自治区で独立を求めるデモがありテロも起こるなど安定しているとは言い難い。自治区でも漢民族が植民し多くの地位を獲得するなど少数民族漢民族とで格差が拡大している。さらに、そのような現状を肯定する少数民族と否定する少数民の間で同じ自治区の中でも格差が広がりつつある。また中国全体で観ると都市部と農村部で格差が拡大している。中国では都市籍と農村籍が分かれており都市籍のほうが福利厚生が充実している。近年工業化のため農村の土地が減少し都市部への人口流入が増加している。農村籍の人間が都市で学校に通おうとしても私立しか選択肢がなく学費が重い負担となり、貧困の再生産の原因となっている。農村籍から都市籍への移転は年金だけ見積もっても現在の二倍となり政府にとってそれだけ及び腰になる課題だが徐々に改善されている。

 教育が充実するにつれて人々が現在の共産党独裁の現状に不満を持つことは必至だ。中国では古来から民意を反映した天命思想により王朝の正統性が論じられてきた。中華人民共和国にとって日本軍、国民党を撃退したことと急激な経済成長でその正統性を保持してきた。けれども今後は今までのような高成長率を維持することはできず、その正統性の根拠が揺らいでしまう。共産党独裁を維持しようとナショナリズムを煽り国外に目を向かわせる。現在のように中国とのパイプが密接になっていない段階で偶発的に戦闘が起ったとき指導者ですら戦闘が戦争へ繋がるかどうか見通せなくなってしまう。戦争にならなくとも国民が政府へ批判をするのは時間の問題だ。少数民族問題を含めて氏が提言するのは連邦制だ。現在でも地方政府は地域独自の課題にあたるため大きな権限が付されているが連邦制ではさらにそれを推進する。

 日本に目を移すと負けず劣らず問題が山積している。日本国民の美徳とされた誠実さが食品偽装などで揺らいでいることや教育後進国となっていることだ。特に後者ではOECDのなかでも大学進学率が平均を割っていたり、予算の中の公教育費の占める割合が他国と比べて群を抜いて低い現状がある。日本は資源に恵まれない国であり発展のための資源は人材しかありえないとさえ言われるがその人材さえ枯渇しかけている。そう聞くとノーベル賞を受賞する人も排出されるではないかと反論する人もいるだろうが、現在のノーベル賞は数十年前の研究が基礎となっておりこれからもそのような人材が出るとは限らないこと、研究のため海外に拠点を置くなど技術や頭脳の流失が続いていることが挙げられる。

 孫子「彼を知らずして己を知れば一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず敗る」とある。戦争するのでなくとも地理は変わらずこれからも隣人として付き合うことのなるので相手のことはよく知っておくべきであり自身についても同様である。そのためにも手っ取り早く日中ともに問題点を把握することができる本書はおすめである。

 

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